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大阪地方裁判所 昭和59年(わ)454号 判決 1984年7月17日

裁判所書記官

濱田隆輝

本籍

韓国京畿道議政府市議政府洞一〇番地

住居

大阪市福島区吉野三丁目七番五号

遊技場経営

坂本昇こと

金昇漢

大正八年九月二〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官宇田川力雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金七、〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一五万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する)被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、大阪市福島区内に居住し、同区及び同市淀川区内において、パチンコ店二店及び麻雀店一店を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五五年分の所得金額が六、八六一万四、一六五円(別紙(一)修正貸借対照表及び修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、昭和五六年三月六日、大阪市福島区玉川二丁目一二番二八号所在の所轄大阪福島税務署において、同税務署長に対し、昭和五五年分の所得金額が一、〇九七万三、〇〇四円で、これに対する所得税額が二〇二万三、二〇〇円(この税額の計算には誤りがある)である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額三、七二一万五、八〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告にかかる所得金額に対する所得税額との差額三、五一九万一、五〇〇円を免れ

第二  昭和五六年分の所得金額が一億七、九一七万三、二〇〇円(別紙(二)修正貸借対照表及び修正損益計算書参照)であったのにかかわらず、昭和五七年三月二日、前記大阪福島税務署において、同税務署長に対し、昭和五六年分の所得金額が一、一六五万三、五三〇円で、これに対する所得税額が二二七万八〇〇円(この税額の計算には誤りがある)である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億一、九五一万二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告にかかる所得金額に対する所得税額との差額一億一、七二三万七、八〇〇円を免れ

第三  昭和五七年分の所得金額が二億二、一二五万三、四三七円(別紙(三)修正貸借対照表参照)であったのにかかわらず昭和五八年三月八日、前記大阪福島税務署において、同税務署長に対し、昭和五七年分の所得金額が三、四五〇万六、五七一円で、これに対する所得税額が一、四〇五万一、八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額一億五、一〇六万七、五〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)と右申告所得税額との差額一億三、七〇一万五、七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書

一  被告人に対する収税官吏の各質問てん末書

一  李鍾澤、高嶋市太郎、孫斗守、崔錦採及び小槻泰久の検察官に対する各供述調書

一  上米良建二、岩下正之、高山太陽、岡橋宏二、金本弘年、中野英治、斉藤明、田中長基、大倉充(二通)、坂根真澄、金鍾達、福谷喜美雄、高嶋市太郎、豊田裕次郎及び崔錦採(四通)に対する収税官吏の各質問てん末書

一  収税官吏作成の各査察官調査書

一  大阪福島税務署長、大阪市福島区長(三通)、大阪市淀川区長及び大阪市長(二通)作成の各査察調査照会に対する回答書

一  大阪福島税務署長作成の各証明書(所得税確定申告書写添付のもの)

一  収税官吏作成の各脱税額計算書

一  大阪福島税務署長作成の証明書(青色申告の承認取消しに関するもの)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、行為時においては昭和五六年法律第五四号による改正前の所得税法二三八条一項に、裁判時においては右改正後の所得税法二三八条一項に該当するが右は犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法によることとし、判示第二及び第三の所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、右各罪につきそれぞれその所定の懲役と罰金を併科し、かつ、情状により所得税法二三八条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により刑及び犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金七、〇〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは金一五万円を一日に換算した期間(端数は一日に換算する)被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用し、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用は刑事訴訟法一八一条一項本文により全部被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおりパチンコ店などを経営する被告人が三年分にわたり合計二億八、九〇〇万円余りの所得税を免れたという事案であるが、ほ脱率が三年分平均で九四パーセントに及び、そのほ脱額は高額であること、その犯行の動機には格別斟酌すべき事情はなく、犯行の態様も毎日経常的に売上金の大半を除外し、その売上の証ひょう書類をその都度破棄して事業所得を秘匿し、また多額の受取利息を仮名預金にして雑所得を秘匿するなど甚だ芳しからざるものであることなどに照らすと、被告人の刑責は重いといわなければならない。しかし、被告人は本件発覚後査察調査に素直に応じ、本件犯行を全部認めて反省していること、また被告人は、本件犯行にかかる所得税につき修正申告のうえ各年分の本税及び延滞税の全額及び加算税の一部を納付していること、被告人には禁錮以上の刑に処せられた前科はないことなど被告人に有利な事情もある。そこで、これらの情状を総合考慮し、主文掲記の刑を量定したものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 野間洋之助)

別紙(一) 修正貸借対照表

事業所得

昭和55年12月31日現在

<省略>

<省略>

(注)内書きは犯則金額を示す。

修正損益計算書

雑所得

自 昭和55年1月1日

至 昭和55年12月31日

<省略>

(注)内書きは犯則金額を示す。

別紙(二) 修正貸借対照表

事業所得

昭和56年12月31日現在

<省略>

<省略>

(注)内書きは犯則金額を示す。

修正損益計算書

雑所得

自 昭和56年1月1日

至 昭和56年12月31日

<省略>

(注)内書きは、犯則金額を示す。

別紙(三) 修正貸借対照表

事業所得

昭和57年12月31日現在

<省略>

<省略>

別紙(四)

税額計算書

<省略>

(注)括弧書きは確定申告書の記載語りを修正したものである。

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